帰任に伴う子供の教育事情
Thursday, October 1st, 2009日本から派遣される駐在員は一般に数年間勤務後日本に帰国しますが、最近の不況のあおりで事業閉鎖・統合・撤退などが相次ぎ、早めに帰任辞令がでることも多いようです。さて、本社に帰任する本人は元の部署に戻ることができますが、駐在員の子供が日本の授業や受験についていけるかという問題が出てきます。帰国子女枠で編入または受験をするためには、学校によっては海外の日本語学校で在学年数などを決めていることもありますので、帰任時期がかならずしも駐在員子女の帰国子女枠での編入条件を満たしているとは限りません。
子供は一般に9歳くらいまでは言語能力や異文化への適応性に長けており、外国語を比較的容易に取得することができます。したがって、小学生もしくはそれ以下の子供が日本に帰国しても、順応度にさほど問題はないようです。ところが、中学高校の思春期の大半を米国で過ごした場合、授業内容の異なる日本の学校システムにもどるのが難しいこともあります。反面、中学高校の子供をもつ父親が米国に赴任になった場合、日本に比べ子供は米国の教育に比較的容易についていくことができます。これは米国は多民族国家であり、様々な国からの子供をいつでも受け入れる体制ができているからです。もちろん、中には外国人などめったにいない学校地域への駐在となり、環境に適応できずに帰国をせざるを得ない子もいるようですが、大半の都市では問題はないようです。
現実問題として、日系企業は社内で家庭事情についてオープンに話し合うカルチャーを持ち合わせていないことが多いため、お互いに同じ問題をもちながらも、帰任直前まで問題の解決策を見いだせないまま、ひそかに悩んでいる駐在員が多くいることです。実際に筆者に相談がくるのも、帰任辞令が出てからの場合が多く、本社が子供の置かれた立場を理解していないといった状況をよく耳にします。たしかに異国で教育を受けた子供の置かれた環境は、単一民族国家である日本で生まれ育ったものには理解しがたい面があります。それ故に現地事情に詳しい皆様が子供の置かれた環境について本社に説明をしなければ、この問題は一向に解決にせず、新しく赴任する駐在員も引き続き同じ問題はかかえていくことになるでしょう。
最も多いパターンとして、父親の帰任後も日本の帰国子女枠の編入・受験の条件を満たすまで、残り数ヶ月間だけ米国に滞在したい場合と、父親の帰任後も引き続き米国で就学を続けたいという場合があります。父親の帰任と同時に家族も駐在員家族としての滞在資格を失いますので、帰国子女枠での編入まであと数ヶ月という場合は、帰任の時期を数ヶ月延ばしてもらえるか雇用主に相談することをすすめます。
帰任時期を変更してもらえない場合、親としては会社と子供の間に挟まれて、極端な選択を余儀なくされることもあります。中には、父親が不本意にも転職を考えざるを得なくなったり、また、母親がわざわざ受験をして学生ビザを取得し、子供を同伴家族として引き続き学校に通わせる人もいます。ただし、母親の学生ビサ申請の理由が自分の学業目的ではなく、子供の米国での就学目的であると判断されると、ビザ発行を拒否される可能性があります。子供自身が学生ビザを取得することもできますが、小学生と中学生は公立の学校に通うことはできません。高校生は1年間だけ公立校の学生ビザを取得することはできますが、学生一人当たりにかかる学費の支払いを義務付けられます。1年が過ぎたら私立校へ転校しなければなりません。子供が学生ビザに切り替えた場合、母親には家族用のビザはありませんが、ビザウエイバーや観光ビザで米国に入国することは可能です。
学生ビザには就労に関して様々な制限があります。大学生の場合、キャンパス内での就労はみとめられるものの、キャンパス外で就労するにはCurricular Practical Training (CPT) もしくは Optional Practical Training (OPT) という研修・就労許可を申請しなければなりません。いずれも特別な例外を除いては合計1年間までしか使うことができず、専攻分野と一致した職種にしか使えません。また卒業後H-1Bなどの就労ビザへ変更申請することができますが、就労ビザの発行枠がなくなれば翌年までは就労ビザを申請できなくなります。したがって、就労ビザが取得できなければ、せっかくの内定も取り消されることになりかねません。このような子供の就労や就職活動の制限を回避する方法として、父親が帰任する前に永住権を申請することもできます。
父親が日本で一年以上管理職で、米国でも管理職である場合、第一優先枠で永住権を申請できる可能性があり、比較的短期間に永住権を取得することができます。仮に第二優先枠で申請したとしても、永住権の申請まで待ち時間がないため、およそ2-3年ほどで永住権の審査が終了します。ただし、第三優先枠で永住権を申請する場合は、永住権申請までの待ち時間が現時点で7年ほどあるので、かなり早めに永住権の申請を始めた方がよいでしょう。永住権を取得すれば、父親の帰任後も家族は引き続き米国に滞在することができます。
永住権を取得するもう一つのメリットとして、大学の学費があげられます。永住権を取得することにより、州内居住者の学費適用の対象となるため、州外の学生、または学生ビザや駐在員など短期就労ビザ保持者に課せられる外国人用の高額な学費を回避することもできます。また、米国市民や永住権保持者対象の奨学金やローンの申請も可能になります。さらに、永住権を取得していれば、子供は就学を行うかたわら、就労を行うことも可能になります。ただし、永住権保持者は全世界の所得が米国の課税対象となるので、日本でうけとる退職金も米国の課税対象となります。注意すべき点として、子供が21歳に達した時点で、親の同伴家族として移民申請ができなくなるので、子供の年齢や大学への進学時期などを考慮し、早めに永住権申請準備の計画をたてることが良策だと思われます。
いずれにしろ、駐在員には帰任後の日本での受け入れ先を用意しているように、駐在員の子供に対しても、それぞれの学校の帰国子女の受け入れ条件など考慮し、日本の教育システムに柔軟に適応できるように配慮するようご検討いただきたく思います。また、本人の希望により、子供だけ米国での引き続き就学できるような選択肢も設けることにより、駐在員の精神的負担を少しでも軽減することができるでしょう。如何に優秀な企業戦士とはいえど、“はい、お父さん!”とビールを注いでくれる愛娘の将来がかかっていれば、親としてはなんとも難しい立場にたたされるのは、全世界共通の情理といえるのではないでしょうか。
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