テロリスト入国防止の新大統領令の差止め

3月6日にトランプ米大統領は、1月27日に発表された大統領令の改正版を発表した。最初の大統領令はテロリストの入国防止を目標とし、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国出身者の入国を90日間禁止し、難民の受け入れを120日間凍結、その中でもシリアからの難民を永久に停止するという内容であった。ところが、この法案は連邦地裁により執行を差止められ、トランプ政権による上訴も却下された。当初連邦最高裁まで争う姿勢を見せていたトランプ政権は、急遽上訴を取下げ、改正版を発表する方針に転換した。

前回の大統領令は、事前の予告やコメント期間を設けずに、金曜日の夕方の緊急発表と同時に施行が開始された為、全米の空港で対象国からの旅行者が到着後入国できずに拘束されたり、また各国の空港でアメリカ行の飛行機への搭乗が拒否されたり、世界中で大混乱がきたされた。今回はこのような混乱を回避する為に発表から施行までは10日ほど間があけられた為、前回のような世界レベルでの混乱を招くことはなかった。

新大統領令では、シリアからの難民受入停止項目が削除され、前回同様年間難民受入数が11万から5万人に削減された。また、イラク政府は旅行者の情報共有やビザ審査に関する協力に合意した為に新大統領令の対象国から外された。新大統領令は、3月16日の発効日時点に国外におり、その時点で有効なビザを持たない6カ国出身者を対象としている。対象国出身者であっても、永住権保持者、外交ビザ保持者、大統領令施行前に既に亡命・難民ビザを発行された者、二重国籍保持者で非対象国の旅券で入国する者、大統領令発効日時点で有効なビザ保持者は対象外とされる。しかしながら、これには例外措置が設けられており、入国拒否により旅行者に過度な困難が生じ、旅行者の入国が国家安全を脅かすものではなく、さらに旅行者の入国は国家に利益をもたらすことが証明できた場合は、審査官はその裁量権限によりビザを発行することができる。また、ビザの延長申請者に与えられるビザ面接免除プログラムが停止される。

この新大統領令の発表をうけ、各州で施行の緊急差止めの訴えが出された。ハワイでは、この新大統領令はイスラム教徒に対する差別的行為であり、米国合衆国憲法や移民法上の正当な手続きを経ずに、法的根拠もなく、憲法で守られている個人の信仰や旅行する自由を奪っている、とハワイ州政府がトランプ政権を相手に訴えを起こし、大統領令施行前日の3月15日にハワイの連邦裁判所により緊急差止め命令が出された。新大統領令の条文には、“イスラム教徒”を名指しにはしていないが、最初の大統領令の難民受入中止項目の中に、迫害を受けた少数派宗教は例外扱いする項目が設けられていた為に、大統領令はキリスト教徒を優遇しており、イスラム教徒に対する差別的行為であると非難されていた。その為、新大統領令では少数派宗教を例外扱いする項目が削除された。これをもって、新大統領令は反イスラム政策ではないとトランプ政権は主張したものの、トランプ大統領の選挙演説の公約にもイスラム教徒の完全入国禁止をあげていたことからも、イスラム教徒に対する差別的意図は明らかである、とハワイ政府側はトランプ政権の憲法違反を主張した。

連邦政府は、大統領には国家安全事項に対する多大な権限が与えられており、今回の差止判決は越権であると批判しており、連邦最高裁まで争う姿勢をみせている。現在、米国最高裁の判事は保守派とリベラル派が4対4に分かれているが、トランプ大統領により選ばれたコロラド州デンバーの第10連邦巡回控訴裁のニール・ゴーサッチ判事 (保守派) の最高裁判事9人目への任命が確定すれば、今後の連邦最高裁の判決は保守派志向に変わる可能性もある。また、最高裁判事の任命確定は新大統領令の上訴にも影響すると思われるが、これに引続き、オバマ大統領時に4-4の引分判決で可決しなかったDACA拡張法案にも多大な影響が及ぼされるものと思われる。当該国のイスラム教徒やDACA就労許可証で働く若者を抱える研究施設、医療機関、一般企業としては、今後の該当社員の滞在資格や出入国について、引続き裁判状況や政府の方針に注意する必要があると思われる。