大統領令による特定イスラム国出身者の入国禁止

トランプ米大統領は1月27日、国家安全確保を理由に、特定イスラム圏市民の90日間入国禁止、難民の受け入れを120日間凍結、その中でもシリアからの難民を永久に停止する大統領令を発令した。入国禁止の対象となったのはイラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国で、9/11のテロ犯の主な出身国であるサウジアラビア、エジプト、レバノン、アラブ⾸⻑国連邦は対象とされていない。この大統領令を受けて各国の米国大使館ではこれらの国の旅券保持者へのビザの発行が停止され、またすでにビザが発行された人も飛行機への搭乗拒否や米国各地の空港で入国拒否されるなど、金曜日の夕方から週末にかけて、拘束者の解放を求めて全米規模で抗議運動が起こった。

これに対し、29日には各地の連邦地裁に訴えが提出され、連邦地裁は大統領令執行を差止めし、有効なビザ保有者の入国許可を命じた。トランプ政権はこの判決を不服として2月5日に第9巡回連邦控訴裁判所に上訴したが、その訴えは却下された。したがって、現時点ではトランプ大統領令の執行は停止されているため、入国禁止令で無効とされた約6万人のビザは再び有効とされ、入国が認められるようになった。

今回の大統領令は過激イスラムテロの防止という名目であるため、一見日本人とは関係が薄いように思われがちだが、実はこの大統領令を正当化している理由は日系社会とも深い関係がある。ちょうど75年前に第二次世界大戦中の真珠湾攻撃を受け、1942年2月19日に前ルーズベルト大統領により大統領令9066が発令された。これをうけ、日系アメリカ人はアメリカ国家の安全を脅かす存在であるとの理由で、12万人もの日系アメリカ人が強制収容施設に退去させられた。その中でも強制収容施設行きを拒み逮捕されたフレッド・コレマツ氏は、特定人種に対する適正過程を経ない差別的行為は違憲であると連邦最高裁まで争ったが、戦時下において敵国日本人を祖先にもつ日系アメリカ人の強制収容は軍事上必要であるという理由で、彼の逮捕は有効とされた。しかしながら、実際には日系アメリカ人はアメリカ国家の安全に危害を加える危険はなく、日系人強制収容は偏見や差別に満ちたものであるという機密調査報告書が政府に提出されたにもかかわらず、この報告書の内容が政府の対日系アメリカ人政策に反すると理由で隠蔽されたのであった。アメリカ連邦最高裁には日系アメリカ人強制収容の軍事上の必要性について虚偽の証拠が提出されていたことが40年後に発覚し、これを元にコレマツ氏は誤審審理の申し立てを行った。カリフォルニア州連邦地方裁判所はコレマツの有罪判決を〝明らかな不当行為〟で無効であると判断し、1983年にコレマツ氏はようやく名誉回復の判決を得ることができた。

また、2001年には9/11同時テロ爆発事件が発生し、アラビア系住民が適正過程を経ない差別的行為の対象となった。ブッシュ政権は戦犯法廷を設置し、グアンタナモ拘留者がアメリカ本土で裁判を受ける権利を剥奪した。今は亡きコレマツ氏も2004年にブッシュ大統領に対し、米国政府はかつて日系アメリカ人に対して行った過ちを二度と繰り返してはならない、と意見書を送ったが、皮肉なことに、このような不当行為を正当化することができた理由に連邦最高裁のコレマツ判決がある。確かにコレマツ氏の判決は無効とされたものの、下級審である連邦地裁の判決は連邦最高裁の判決を拘束するものではない。そのために1944年の連邦最高裁の判決、つまり、軍事的必要があると判断された時、正当な法の手続きを踏まずに特定人種を強制退去することができる軍事令を発するのは合憲である、という先例は未だ有効である。

トランプ政権はさらに連邦最高裁上訴する構えをみせていたが、結局上訴を取りやめ、新たに訂正版の大統領令を発表する方針に転換したので、訂正案の発表に注意する必要がある。また、過激派テロ防止政策以外にも、メキシコ国境からの入国時に永住権放棄書に署名を強制しようとする入国官がいるという情報もはいってきている。したがって、入国に関しては専門家の意見を求め、個人の権利をしっかりと把握する必要がある。また、今後LやH1Bを含め各種ビザプログラムの内容にもさらなる規制が加わる可能性があるので、今後の移民法の変化に対応できるよう、引続き政府の方針に注意する必要がある。