トランプ新政権による移民法改正の行方

2017年1月20日のトランプ新政権発足に伴い、上院司法委員のグラスリー上院議員とダービン上院議員により非移民就労ビザの法案が提出されると発表されました。この法案は主にH1BとLビザプログラムの規制強化を目的に2007年に提案されましたが、未だに可決されていません。H1BとLビザプログラムは、アメリカの高度技術者の不足を補強する意味で作られたビザですが、実際にはこのプログラムを悪用して、国外から安価な労働力を輸入してアメリカ人の雇用を奪っている企業があるとの批判が高まっていました。その為に、これらのビザプログラムの監督強化、賃金条件の改善、またアメリカ国内の労働者を保護することにより、このプログラムの健全性を回復しようという意図でこの法案が提出されました。

L1ビザの主な改正点は、(1) 最低賃金の設定、(2) 国土安全保障省による監査実施、(3) 関連会社間派遣に実態のない幽霊会社を使っていないことの確認、さらに (4) L1Bビザの資格条件である “specialized knowledge” の定義に変更を加えることにより派遣社員が確実に重要人物であることを保障する、といった点です。

H1Bビザに関しては、アメリカ人の雇用確保が第1優先事項である為、先ずは現在の永住権申請のように、外国人を雇用する前に、誠意をもってアメリカ人の雇用を検討しなければならないとしています。次に、アメリカ国内の労働力が不足している場合は、国外から労働力を輸入するのではなく、アメリカの大学で教育を受けた者を優先して採用しなければならないと提案しています。このような優先順位を設けることにより、アメリカ人とアメリカで卒業した非移民労働者両方の雇用保護を強化することができると説明しています。

さて、H1Bには4大卒用の6.5万件と米国の修士号以上の学位取得者用の追加2万件の計8.5万件の年間枠が設けられていますが、ここ数年間は申請者数が年間枠を大幅に上回っていた為に、H1Bの申請期間は、毎年受付開始の4月初週の7日間に限られていました。申請者は無作為の抽選にかけられ、当選した者だけ審査されました。昨年度で23万件以上の申請があり、当選確率はおよそ30%程にとどまっています。

この法案では、無作為の抽選によりH1B申請者を選ぶのではなく、H1Bに優先順位を設けてより優秀な者にビザを与えるように提案しています。優先順位システムでは、高学歴取得者 (修士号、博士号など) 、高収入所得者、高度技術保有者が優先されます。また、国外から外国人労働者を大量に短期的に受け入れる企業は、調査の対象となります。更に、社員が50名以上いる雇用主は、H1BやL1ビザ社員を半数以上雇用することを禁止されます。

政府の移民法委員会のセッションでは、この法案はH1B枠の60%以上を占めるインド系のIT派遣会社2社によるH1Bの悪用を是正するのが主な目的であることを明確にしています。この2社がインドから安価なコンピューター技師を次々と短期的に派遣し、アメリカ人技師の解雇に拍車をかけていることが問題視されています。一方、中小企業や新規起業の雇用主は、アメリカ人技術者やエンジニアが圧倒的に不足している為に、アメリカの大学から外国人を高額で採用したいが、H1B枠が足りない為に採用することができないと訴えています。また、高度な技術を保有するH1B社員の雇用は、他部門のアメリカ社員の雇用につながるが、逆に外国人を雇用する為の就労ビザを確保できなければ開発自体がなくなり、アメリカで教育を受けた人材や技術が国外に流出してしまう恐れがあるとも指摘しています。したがって、移民法改正を行うにあたり、新政府はH1BやLビザプログラムを悪用している企業を規制すると同時に、アメリカ人の雇用に貢献する企業がH1Bで優秀な人材が確保できるよう、うまくバランスを図らなければならないでしょう。もし本法案が可決すれば、アメリカに滞在する多くの日本人にも影響があるものだとおもわれますので、今後の成り行きを見守る必要があるでしょう。