2016年11月: 新政権下におけるDACAの先行き

2012年6月15日に、一定条件を満たす不法滞在の若者が、一時的に強制退去処分対象からはずされ、その間就労許可証を与えられるという暫定救済措置 (DACA)が発表された。この措置により、いままでにアメリカで育ち学業を修めた75万もの若者が一時的に滞在・就労資格を取得し、52.5万もの若者がDACA資格の延長を承認されている。この措置により、アメリカ国内の企業も、DACAにより就労資格を与えられた若者を数多く採用するようになった。

2014年11月20日には、不法入国した親もこの救済措置の対象となるように (DAPA)、米国に不法入国してから5年以上滞在し、犯罪歴がなく、その子供が米国市民権や合法滞在資格をもっていれば、一時的な合法的滞在資格を与えるという大統領令が発表された。2012年のDACAでは、2007年以前に16歳未満で米国に不法入国したものが対象であったが、2014年の大統領令では対象者の範囲が拡大され、16歳未満で米国に不法入国した犯罪歴のない子供で、2010年1月1日より継続して米国に滞在している15 歳以上の学生を対象としている。 ところが、この大統領令は越権であると共和党の猛反対にあい、発令の翌月には南部州を中心に26州が南部テキサス州の連邦地裁に提訴したために、2015年2月18日から開始する予定であった新DACAとDAPAの実施が一時的に差し止められた。この大統領令は、最高裁まで争われたが、2016年2月に最高裁のスカリア判事が急死したことから、最高裁は一人欠員で8人構成となってしまい、結局4対4の引き分けで、結論がでなかった。オバマ大統領は9人目の判事を任命しようとしたが、またもや共和党の反対に会い、新大統領の宣誓式がおわるまで先送りとなってしまった。

このような状況の中で大統領選が行われたが、共和党が擁立したドナルド・トランプの勝利により、DACAプログラムの存続が危ぶまれている。トランプ次期大統領は選挙公約でDACAの撤廃を掲げている。また、最高裁9人目の判事は、共和党よりの判事が任命される可能性が高まってきたため、新DACAとDAPAが承認される目処はほとんどなくなったといえる。既存のDACAプログラムに関しては、DACAプログラムを完全に撤廃するのか、新規申請受付のみ停止するのか、延長申請受付も停止するのか、既存のDACA保持者の資格も取消すのかなど、まだ具体的な方針は打ち出されていない。また、次期大統領就任後100日以内のトップ・プライオリティーとして、来年早々DACA撤廃に取り組むのか、それとも1.3ミリオン以上のDACA の若手人口を考慮して、何らかの妥協策を見出すのか、先行きが不透明である。

現時点では新規のDACA申請の審査は9ヶ月ほどかかっていることから、2017年1月20日に次期大統領が就任するまでに新規のDACAが承認される可能性はいたって低いが、延長申請のほうは比較的早く処理されているため、すぐに申請をすれば次期大統領就任までに承認される可能性が高い。しかしながら、DACAの審査が長引かないという保証はなく、また申請中のDACAもいつ取り消されるかわからない状況にあることから、申請費用ももどってこない可能性も秘めている。また、旅行許可証 (Advance Parole) を使って国外に出ているDACA保持者は、新大統領就任までにアメリカにもどってこないと、一旦DACAが廃止されてしまうと、アメリカにもどってこれなくなる可能性があるので注意が必要である。さらに、入国管理局は独自の判断で入国を拒否する権限をもっており、旅行許可証をもっていても入国が必ず保証されているわけではないため、DACA保持者は国外にでるのは極力避けたほうが賢明だといえる。

尚、新政権の不法滞在者に対する取締方針が厳しくなる可能性を考慮し、新規にDACAを申請する者は、DACAの申請を行うに伴い、指紋、犯罪歴、その他個人情報を政府に提供し、自ら不法滞在であることを表明するものであることを十分に認識する必要がある。政府は、詐欺や犯罪行為が判明しない限りは、DACA申請書類の情報をもとに将来退去処分にすることはないと表明はしているものの、その表明を裏付ける法律があるわけではなく、表明はいつでも撤回される可能性がある。DACAはあくまで一時的な救済措置に過ぎないため、政府に開示した個人情報が今後どのように扱われるか、何らの保証もない。すでにDACAを与えられているものは、個人情報を政府に開示済であるため、DACAの延長申請をすることにより、自らの立場をさらに悪化する可能性は低いとおもわれるが、新規申請者は、まだ方針の固まらない新政権下において、個人にとって不利な情報を開示するのは、かなり慎重に行う必要があるとおもわれる。また、雇用主責任として、DACAの就労許可証で採用している社員に対しては、今後の新政権の方針を見ながら、適切な対応をとることが重要であると思われる。